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郷土を愛する態度を育てるには

教育基本法に次のような項目があります。

伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。

教育基本法 第一章 教育の目的及び理念(教育の目的)第ニ条五項

この文言を受け、学習指導要領の中には、「郷土を愛する」という言葉がよく出てきます。

学校教育において、教育基本法にあるような「郷土を愛する態度」を養うにはどうすればいいのでしょうか。

ここでは次の3つの方法を考えてみようと思います。

郷土を愛する態度を育てるには、

①生徒に地域の問題を解決させる

②学校でICTを使った教育活動を推進する

③生徒に将来の生き方を考えさせる

目次

定義:「郷土を愛する態度を養う」とは

郷土を愛する態度を養う方法を考えるのはものすごく難しいです。

なぜなら、「郷土を愛する態度」とはどういうものだという定義がないので、「目指す所=ゴール地点」がわからないからです。

「郷土を愛する態度」がわからないのにそれを目指せということは、「今からみんなで走ります。ゴールはわかりません。でもゴールして下さい。よーいスタート!」と言われているようなものです。

従って、自分で「郷土を愛する態度」を定義するところから始めます。

①「郷土」の定義

郷土とは生まれ育った場所・社会であり、日本中に人が住んでいる限り、郷土とは日本全国であり、それぞれの地理的条件も文化的環境も人口もインフラも全く違います。

また、生徒は引っ越したり転校したりしますので、生まれ育った場所が学校がある場所とは限りません。

従ってここでは、

学校教育における「郷土」とは「学校の所在地とその周辺を含めた地域社会」と定義します。

②郷土を愛する態度が養われた生徒像

今回は、「郷土を愛する態度」が養われた状態とは、

高校生の段階では、「郷土を理解し、受け入れる」状態

社会に出た後は、「郷土を懐かしみ、その発展のために行動する」状態

と考えることにします。

前提:生徒が求めているもの

彼らの地元に関する愚痴を聞いていると、生徒達が求めるのは次のようなことかなと思います。

・快適できれいあること(インフラが整備されていて新しいこと)

・流行が適度に体験できること(商業施設や商品などが充実していること)

しかし、この「快適さ・きれいさ・流行」に対する欲求は、表面的なものです。

青年期の特徴である自己肯定感の低さから、彼らが真に、強く求めているのは、承認されることです。

承認され、自己有用感・自己効力感を得て自己肯定感が高まるのは、大人にとっても幸福なことです。

ということは、

「快適さ・きれいさ・流行」がなくても、生徒達の承認欲求を満たす場となる郷土なら、生徒達は郷土に親しみを持ち、その結果として郷土を理解し、受け入れるはずです。

①生徒に地域の課題を解決させる

郷土において高校生が承認欲求を満たし、地域に愛着を持つにはどうすればいいのか。

郷土という地域社会に高校生が貢献し、自分で満足したり、人に感謝されたりする経験をすればいいのです。

高校生は大人に比べて経験が乏しいですが、高校生にしかない強みがあります。エネルギー、チームワーク、真面目さ、数、体力、素直さなどです。大人がつい協力したくなる若さや、幼児児童が憧れる適度な成熟度も高校生の強みです。

これらの強みを活かし、停滞した地域社会の問題を新たな切り口や力で突破することも可能です。

そうすることによって生徒達は地域から感謝され、承認され、郷土に愛着を持つことができます。

これらの活動を授業で行うことができるのは、「総合的な探究の時間」です。

「総合的な探究の時間」は、教科横断的に生きる力を育むことが期待されていますが、地域社会に出るという役割も果たしてくれる授業です。

「自分が頑張って街が良くなった、地域の人が協力してくれた」という経験が郷土を愛する態度へと昇華していくはずです。

②学校でICTを使った教育活動を推進する

現代では、社会が成熟し、ガツガツと豊かさを求めなくなり、価値観が枝分かれし、多様性が求められるようになりました。

生徒達と話すと、最先端の都会で高収入を得て出世していくという生き方にはあまり興味がないようです。いわゆる、地元志向が高くなってきています。

ブランド品・最先端のものを求め、大量消費をすることが豊かさだというかつての価値観は影をひそめ、代わりに自分らしく、ゆるく、仲間に囲まれて心地良く生きることにこそ価値が見出されるようになっています。

消費財を求めるモノ消費から、体験を求めるコト消費へと生徒の指向が移っているような気がします。

そんな価値観を持った若者達が、ICTによって出社せずに仕事が完結する仕事に就いた場合、ネットサービスやクラウドをフル活用すれば、わざわざ地方を出て都会に行かなくてもよくなります。

生活のために必要なものがある程度揃っているなら、人口が過密で物価高な都会で暮らさなくても、地方で豊かに快適に暮らすことができます。

美しい自然や美味しい農作物に囲まれて、適度に便利な地域で暮らせば、その地域社会に対する満足度は高まり、愛着も深まるでしょう。

現在の若者の価値観やICT技術は、郷土を愛する心を育てるには追い風です。

学校で文房具のようにICTを使いこなせていたら、社会に出たときにICT技術に対する抵抗感も無く、素早く仕事を覚える下地になることでしょう。

これからの時代、ICTは読み書き算盤に匹敵する必須知識です。

学校でICTを使った教育活動を推進することは、多様な働き方を促し、地域社会に定住する若者を産み、長い目で見れば郷土を愛する心育むことに繋がるはずです。

③生徒に将来の生き方を考えさせる

「郷土を愛する」ことは、人生の中でどれくらい優先されることなのでしょう。

社会に出た後、今の生活に一杯一杯で自分の生活に満足していなければ、郷土を愛する余裕もないし、今の自分を作った郷土で生きた日々を後悔するかもしれません。

「郷土を愛する」には、今の生活に満足していることから生まれる心の余裕がなければなりません。

高校生が今の生活を変えることができませんが、高校生が大人になった時の生活は自分で築きます。

今の時代、よい大学を出て、一流企業に就職し、妻は専業主婦で子育て、夫は定年まで勤め上げるといった、昭和の香りがする再現性の高い「人生の正解モデル」はありません。

多様性が重んじられる現代社会は、裏を返せは、たくさんの選択肢の中から自分で選び取るという決断力がなければ辛い社会です。主体的に自分という人間を知り、どう生きていくかを考えなければ、生き方がわからなくなる危うい社会なのです。

しかし、きちんと考え、その生き方を実現するための用意をしておけば、

都会でバリバリ働く、外国に行く、自然の中でICTを用いた最先端の仕事をする、高収入の仕事に就いて早期FIREを達成する、在宅で起業して自由に生きる、お金持ちにはなれなくても安定した仕事を選ぶ、ネットビジネスで副業をして稼ぐなど、

さまざまな生き方が可能です。

大きな視点で考えると、進路学習が郷土を愛する態度へつながります。

郷土に残る選択をすれば、自分が生きる場所ですので、郷土の発展に自然と寄与することになるでしょう。

郷土を離れる選択をすれば、郷土以外の地域社会を知ることによって郷土の良さを発見することになるでしょう。

郷土を愛する態度を育てるには、まず将来の生活の基盤を築く進路学習から始める必要があると思います。

まとめ

「郷土を愛する態度を育成する」ことは、人口減少社会において、地域の産業や文化の担い手を育てるために大切なことです。

しかし、何を愛するかは個人の自由であり、「郷土を愛する」という心を学校が生徒に押し付ける訳にはいかないのに、教育基本法や学習指導要領に「学校で行うこと」の1つとして明記されている。これが学校で「郷土を愛する態度を養う」ということの難しさだと思います。

一方、新しい学習指導要領の下で重要な地位を占める「総合的な探究の時間」は、問題を発見・解決の方法を学ぶものです。

コロナ禍で一気に導入や活動が進み、環境が整いつつあるICT教育は、情報インフラの学習です。

また、進路学習は、高校が担う不易の役割です。

3つとも生徒がこれからの時代を生きていく上で必要な学習であり、郷土を愛する態度を養うことにもつながる学習です。

従って、私は、

郷土を愛する態度を育てるには、

①生徒に地域の問題を解決させる(総合的な探究の時間の活用)

②学校でICTを使った教育活動を推進する(ICTに慣れる)

③生徒に将来の生き方を考えさせる(進路学習の活用)

ことを挙げました。

こういった必須の学習の中に地域との関わりを散りばめていくことによって郷土を愛する態度を養っていくことが適当なのではないかと思います。